第16章 断章 極彩
盤星教本部を後にした甚爾は、隣を歩く孔に園田との会話で出てきた疑問を投げる。
「……盤星教の協力ってのは沖縄の件か?」
「ああ」
「なんであの時メイドを殺さなかった?テキトーに連れてって、テキトーに殺せって言ったよな」
「あの時、オマエのプランがなんとなく理解できたからな。メイド救出、失敗の緊張より成功の緩みの方が“削り”としてはデカイと判断した。つーか、仲介役をコキ使ってんじゃねーよ」
孔は甚爾の鋭い眼光も気に留めず、咥えた煙草に火を点ける。
「上位下達をブラしてコッチの狙いをボカすのは散々やってきたことだろ?結果オーライだ」
確かに仕事は成功、報酬も大きい。
しかし、そこだけはどうしても訳が分からないのだ。
「いやなんで沖縄なんだよ?」
「それは俺も笑った。捕らえた人間を運ぶなら、普通は車だよな。公共交通機関はリスク高いし・・・でも今回はなんとプライベートジェット、会長の私物だとよ」
「だとしてもだろ」
「金持ちは考え方のスケールが違うってことだろ」
金持ちの考えはいつまでも理解できない気がするが、その金持ちがいないと仕事もなくなるのが現実。
ということで、沖縄の件は頭の隅に追いやる。
「その金で飯食おう。接待に使ってる店に連れてけよ」
「嫌だよ。オマエ、男に奢んねぇじゃん」
ケチな奴と表情だけで伝えてくる甚爾に、孔は苦笑しながら煙を吐いた。
「オマエと関わるのはな、仕事か地獄でだけって決めてんだよ」
2人は分かれ、甚爾は1人で門の方へ歩いていく。
盤星教本部の建物は少し遠ざかったが、まだ門までは距離がある。
無駄に広い敷地にうんざりしていると、ふと目前に何者かが立ちはだかった。
その人物を見て甚爾は瞠目する。
白い髪の半分程に乾いた血が付着し、前面を大きく切り裂かれた服にもべっとりと血痕がある。
殺したはずだ、
その手応えは確かにあった。
だが、見開かれた青い眼を見間違うはずもない。
「よぉ、久しぶり」
そこには五条 悟が立っていた。