第16章 断章 極彩
盤星教本部 星の子の家―
鉄筋コンクリートの立派な建物の地下、一般教徒は入れない場所に甚爾と孔は立っていた。
「ほらよ」
武器庫呪霊に理子の遺体を吐き出させる。
「星漿体 天内 理子の遺体、五体フルセットだ」
その完璧な仕事ぶりに盤星教の代表役員である園田は満足げにうなずいた。
「フム、確かに。……金の受け渡しは手筈通りに、多少色もつけよう」
「流石教祖様、太っ腹だね」
甚爾の隣で孔が小さく教祖じゃねーよとたしなめ、園田に対して瞠目する。
「マジか?必要経費とはいえ、かなり協力してもらったのにか?むしろゴネられると思ったぜ」
「私達は駄目元で君に暗殺を依頼した」
園田は理子の遺体に白い布を被せる。
盤星教は奈良時代に天元が日本仏教の広がりと共に術師に道徳基盤を説いたことが始まりだ。
「呪術界と宗教法人の相性は最悪。その歪みから生まれたのが、現在の盤星教 星の子の家」
その相性の悪さ故に盤星教は非術師の立場に徹している。
様々な越権を許されている術師も、原則として非術師には手を出せないからだ。
「だが時が来てしまった。経典に記された禁忌、絶対的一神教へと成り果てた盤星教、その対象である天元様と星漿体などという穢れの同化!」
聞いてもいないのに園田の演説は続く。
「教徒の手前、同化を見過ごせば会が立ち行かなくなる。かと言って行動が過ぎれば、術師に潰される。もう我々はヤケクソだったのだよ」
まだ興奮冷めやらぬといった調子で園田は身を震わせた。
「それがどうだ?失うはずだった全てが今や手中にある。財布の紐も緩むというもの」
「もし天元が暴走すれば、立ち行かなくなるのは人間社会かもしれねぇぜ?」
理子の遺体を抱え、歩き出した園田の背中に孔が声をかける。
「星と共に堕ちるのならば已む無し」
一切迷いのないその言葉に甚爾は声に出さない代わりに、頭がイカれてやがるとジェスチャーした。