第16章 断章 極彩
口裂け女の右手から金属が擦れるような音。
そして、甚爾の髪が少し切られ、左耳の付け根から血が出てきた。
「成程、そういう感じね」
直後に景色が元に戻る。
ただし、前と違うのは甚爾の周りに浮遊している5つの巨大な糸切り鋏。
その鋏が左耳、左腕、右脚を切り落とさんと挟み込んでいる。
残り2つも右腕と左脚に届きそうだ。
しかし、それも甚爾の目には止まっているのと同じこと。
すべての鋏をその刃が届く前に天逆鉾で払う。
逆鉾の効果で即座に術式は解除され、巨大な鋏は霧散した。
その隙とも言えない間に夏油が甚爾の背後を取る。
馬鹿が……
俺の間合いに入るとか、張り合いがなさ過ぎる。
「終わりだな」
「オマエがな」
つまらなさそうな甚爾に構わず、夏油は即座に右手をかざした。
狙い通りかざした右手に甚爾の武器庫呪霊が吸い込まれ始める。
呪霊操術
降伏した呪霊を取り込み、自在に操る術式
階級換算で2級以上の差があれば、降伏を除き、ほぼ無条件で取り込める。
能力こそ特殊だが、武器庫呪霊自体はさほど強くない。
武器庫は押さえた。
呪具がなくなれば、攻撃手段はかなり狭まる。
あとは物量でゴリ押し……
その狙いに反してバチィと音を立てて夏油の手が弾かれる。
「なっ……!」