第16章 断章 極彩
「ん?あぁ、あのメイドか」
甚爾はどうでもよさそうに言い放つ。
「多分死んでる。生かす気も殺す気もなかったけどな。運がよきゃ生きてんじゃね?」
「そうか、やはりオマエは死ね」
手で虹龍に合図する。
甚爾は向かってくる虹龍の口目がけて呪具の刀を噛ませ、顎に切り込み、そのまま真っ二つに切り裂いて祓ってしまう。
そしてすぐに切り返して夏油を狙ってくる。
切り裂いた!?
手持ちの呪霊で最高硬度の虹龍だぞ!?
こうなると夏油の持っている呪霊では容易く切られてしまう。
だが、防御できないからといって戦う手段がなくなったわけではない。
まずは奴の攻撃手段を削ぐ。
虹龍を祓った甚爾はその消え方から式神ではないと判断していた。
呪霊操術か……
「烏合だな」
大したことない、と屋根に跳ぼうとしたその時―
「ねぇ」
突如辺りの色が反転し、視界から夏油の姿が消えた。
甚爾から少し離れた所には顔と腕を包帯でグルグル巻きにした女の呪霊。
「わた、わタ、わたし、きれい?」
包帯から見えた口は耳まで届く程裂け、長い黒髪の隙間から覗くいくつもの目で甚爾を見ている。
「あー……」
仮想怨霊……
質問に答えるまでお互いに不可侵を強制する簡易領域か。
手持ちの呪具を天逆鉾に取り替える。
この手の質問は肯定しても否定してもロクなことにならないと相場が決まっている。
「そうだな……ここは敢えて、趣味じゃねぇ」