第16章 断章 極彩
「そうか、死ね」
夏油が感じたのは自身を焼き尽くすような怒り。
何故、どうして彼女が殺されなければならない?
ただ皆と一緒にいたいと、当たり前のことを願っただけなのに、
やっと本心を打ち明けて、これからささやかな願いを叶えようとしていたところだったのに、
何故その願いを命と共に取り上げられなければならない……!
噴出する怒りの中でも夏油は冷静だった。
言葉通りに五条を殺したのなら、生半可な呪霊では太刀打ちできない。
そう判断して虹龍と口裂け女を呼び出す。
高専には無数の蔵があり、その中でこの薨星宮に続く扉はひとつだけ。
それも毎日位置を変えるのだ。
にもかかわらず、なぜ甚爾がここまで迷わずに夏油達を追えたのか。
「薨星宮と忌庫は隠す結界、入口に見張りは置けない。扉の位置さえ分かっちまえば、あとはザル」
甚爾は銃を持ったまま大樹を見上げた。
「この時期から術師は忙しくなるし、今、高専には蠅頭が溢れている。外はてんやわんやさ。呪力のない俺は透明人間みたいなもんだ」
大口を開けた虹龍の向こう、夏油に銃を向け、なおも甚爾は続ける。
「でも1つ問題があってな。俺が呪具を持つと呪具の呪力で透明人間じゃなくなっちまう……焦んなよ」
迫る虹龍にも動じず、甚爾は悠長に銃を撃つ。
呪霊の特性をよく分かっている。
呪力のない普通の武器では呪霊をすり抜けて傷つけることはできない。
それを逆手に術師である夏油を狙ってきたのだ。
虹龍をすり抜けて夏油に向かってきた銃弾を特殊な呪霊で防御し、虹龍を突っ込ませる。