第16章 断章 極彩
覚悟は決めていたはずなのに、理子は目頭が熱くなってくる。
「……私は、生まれた時から星漿体という特別で。皆とは違うって言われ続けて……私にとっては特別が普通で、危ないことはなるべく避けて生きてきた」
避けていたはずなのに、両親は交通事故で亡くなってしまった。
でもそれは理子にとっては既に遠くの出来事になってしまっていて……
「お父さんとお母さんがいなくなった時のことは覚えてないの。もう悲しくも寂しくもない」
きっと今回もそういう風になるんだと黒井や友達と離れたくないと叫びそうになる心に蓋をしてきた。
「だから同化で皆と離れ離れになっても、大丈夫だって思ってた……どんなに辛くたって、いつか悲しくも寂しくもなくなるって」
とうとう堪えきれなくなって、ぱたりと理子の目から雫が落ちる。
「……でもっ、でもやっぱり、もっと皆と一緒にいたい……!」
涙と共に蓋をしていたはずの思いもとめどなく溢れてきた。
「もっと皆と色んな所に行って、色んな物を見て……もっと!!」
それが理子の切なる願い。
決して叶えられないと思っていたのに、今ここに叶えてくれると、手を差し伸べてくれる人がいる。
「帰ろう、理子ちゃん」
やっと本心が聞けたと安堵した夏油が差し伸べた手に理子も手を伸ばした。
「……うん!!」
手と手が触れるまさにその時、
パンと乾いた炸裂音と共に迸る赤色。
そして理子の身体がゆっくりと傾いだ。
「理子ちゃん……?」
力無く倒れた理子の目は生気を失い、頭からは血が流れて広がっていく。
頭部を撃たれた。
目の前の事実が理解できず、夏油は立ち尽くしてしまう。
「ハイお疲れ、解散解散」
ここにいるはずのない第三者の声。
緩慢に顔を上げると、五条が相手にしていたはずの黒髪の男ー伏黒 甚爾が銃を持って立っていた。
「なんでオマエがここにいる?」
「なんでって……あぁそういう意味ね」
傷のある口元を歪めて甚爾は嗤う。
「五条悟は、俺が殺した」