第16章 断章 極彩
覚悟を決めた理子の目にはもう涙はない。
その顔を見て、夏油は最後に言おうと決めていた言葉を紡いだ。
「……それか引き返して、黒井さんと一緒に家に帰ろう」
「……え?」
思いもよらない提案に理子は一瞬理解が遅れた。
夏油の方を見るが、彼は大樹を見つめたまま、表情を変えずに続ける。
「担任からこの任務の話を聞かされた時、あの人は“同化”を“抹消”と言った。あれは、それだけ罪の意識を持てということだ。うちの担任は脳筋のくせによく回りくどいことをする」
つまり、理子を殺すのと同じ覚悟を持って臨め、と。
最初に夏油達には荷が重いと言っていたのは、任務の難易度ではなく、この罪の意識のことだったのだ。
「君と会う前に悟との話し合いは済んでる」
最初に理子がいたビルが“Q”によって爆破される前、その敷地内の自販機の前で、夏油は五条にある仮定を話していた。
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「星漿体のガキが同化を拒んだ時ィ!?」
小銭を手の中で遊ばせる五条が少し考える素振りをする。
「……そん時は同化はなし!」
気持ちいいくらいに言い切った五条を見て、夏油は喉の奥で笑った。
「いいのかい?」
「ああ?」
「天元様と戦うことになるかもしれないよ?」
「ビビってんの?……大丈夫、なんとかなるって」
誰が敵になろうが関係ない。
たとえそれが呪術界の根底を支える存在だとしても、五条と夏油なら負ける気がしない。
2人の瞳にはその自信に満ちていた。
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「私達は最強なんだ」
「理子ちゃんがどんな選択をしようと、君の未来は私達が保障する」