第16章 断章 極彩
「ここか」
甚爾はおよそ常人には見えない足跡を辿って、星漿体が向かったであろう薨星宮に続くエレベーターの前に立っていた。
かごは下に降りており、閉じた扉の窓から見えるのはエレベーターシャフトの壁。
馬鹿正直にエレベーターを使えば、勘付かれる。
そのためワイヤーロープを伝って降りることを決め、扉を壊した。
シャフトを覗くとずっと下にかごが見える。
当たりだな。
ワイヤーロープに飛び移り、慣れた動作で下へ降りていく。
音もなくかごの上に降り立つと、天井救出口を開けた。
本来これを開けるには工具が必要になるが、甚爾にかかれば素手でも難なく開けられる。
すると、すぐ近くで啜り泣く声が聞こえてきた。
エレベーターの陰から様子を窺うと、メイド服の女が目を押さえている。
甚爾にも見覚えのある顔だ。
……星漿体のガキの学校で見たメイドの女。
騒がれるのも面倒だし、黙らせるか。
周囲に他の気配がないことを確認し、学校の時と同じように静かに背後に寄り、声を上げる間も与えず、首を締め上げて折る。
そして音を立てずに横たえて、まだ臭跡が残るトンネルを迷いなく進んだ。
少し進むと、会話する少年と少女の声がしてくる。
星漿体とその護衛の高専生だと判断できた。
本人達は決して大声ではないのだが、甚爾の耳にはその内容までつぶさに入ってくる。
地下に降りる前に出しておいた拳銃を取り出しながら聞いていると、護衛の高専生の言葉に少し驚かされた。
……オイオイ、それじゃ盤星教の連中が星漿体を殺すのに躍起になってた意味がなくなるじゃねぇか。
だからといって、14歳の少女を殺すことに今更抵抗があるわけでもなし、甚爾のやることは変わらない。
会話を続けている理子の頭に静かに銃口を向け、引き金に指をかける。
コッチに気づいた様子もねぇし、返事くらいは言わせてやるか。