第16章 断章 極彩
高専最下層―薨星宮(こうせいぐう)参道
「理子様」
地下に到着したエレベーターから降りた黒井は立ち止まって頭を下げた。
この先の結界は星漿体である理子と術師である夏油しか入ることができない。
「私はここまでです……理子様、どうか……っ」
言葉を続けられない黒井の頬に手が伸ばされ、次の瞬間には理子に抱きしめられていた。
「黒井、大好きだよ……!」
両親が亡くなった後も世話係としてここまで育ててくれた黒井への思いが涙となって溢れ出す。
「ずっと……!これからも、ずっと!」
「私も、大好きです……!」
そんな理子に応えるように黒井も理子をぎゅっと抱きしめた。
別れを惜しみながら、その場に黒井を残し、夏油は理子を連れて本殿へ続くトンネルを抜ける。
開けた視界に理子は思わず息を呑んだ。
「ここが……」
「ああ、天元様の膝下、国内主要結界の基底。薨星宮 本殿だ」
とてつも無く太い縄が巻きついた山のような大樹が中央にそびえ立ち、その周辺をぐるりと囲むように建物が連なっている。
夏油が付き添えるのはここまで、この先は理子ひとりで向かうことになる。
「階段を降りたら門をくぐって、あの大樹の根元まで行くんだ」
夏油は階段の先、向かうべき方向を指差す。
すり鉢状に連なる建物や階段に隠れて、根元までは見えないが、下に行けば自ずと辿り着けるのだろう。
「そこは高専を囲う結界とは別の特別な結界の内側。招かれた者しか入ることはできない。同化まで天元様が守ってくれる」
その結界に理子が入ってさえしまえば、刺客も追って来れない。