第16章 断章 極彩
するとブブブと不気味な音と共に蚊柱のようなものが五条の左手から上がった。
アレは……蠅頭!?
おびただしい数の蠅頭が五条を取り囲む。
あの芋虫のような武器庫呪霊の中に飼ってたのか。
「蠅頭をチャフみてぇに使おうってわけね」
これじゃアイツの位置も分からん。
死角もできたし、もう一度“蒼”で……
再び視界を確保しようと呪力を練る。
が、脳裏に警鐘が鳴った。
いや待て、アイツの狙いは天内だ。
もしターゲットを傑達に切り替えたのだとしたら?
あの脚だと俺でも追いつけねぇぞ……!
五条は思わず先行する夏油達が向かっている筵山、薨星宮(こうせいぐう)の方を思わず見た。
その隙を甚爾が見過ごすはずはない。
山の方に目を向けた五条の死角から肉薄する。
それも一瞬で勘付かれ、青い眼がこちらに向いた。
手ぶらの俺も気取る勘の良さ。
この呪具から滲み出る異質な呪力を六眼のオマエが見落とすわけがねぇ。
ビビって寄らせることもねぇ。
だが、ようやく術式頼りの守りに回ったな。
ここは俺の間合い、逃さねぇよ。
先程出しておいた十手の形をした短刀を容赦なく五条の喉に突き刺す。
特級呪具「天逆鉾(あまのさかほこ)」
効果:発動中の術式の強制解除
ゴボリと首から鮮血が溢れる中、己の喉を貫く刃を止めようと反射的に甚爾の手を掴むが、さほど呪力強化できていない少年の腕力に甚爾が負けるはずもなく、喉から右脇腹にかけて一息に天逆鉾で切り裂いた。
その勢いのまま右脚も複数回刺す。
崩れ落ちる五条の額を左手に隠し持った小刀で突き刺し、トドメを刺した。
倒れ込んだ五条を中心に血溜まりが広がっていき、動かないことを確認する。
そして刃についた血を払うと、甚爾は星漿体が向かったと思しき山の方に足を向けた。
「少し勘が戻ったかな」