第16章 断章 極彩
急に背後にブラックホールができるようなものだ。
対策に動く前に吸い寄せられて潰れる。
しかし、五条の目算に反して不意に男が消えた。
―と、思ったら五条の後ろにある建物の屋根の上。
なんつー速さだ。
“蒼”を振り切りやがった!
しかもコイツ、何かおかしいと思ったら、呪力が全くない。
天与呪縛のフィジカルギフテッドか!
動きがまるで読めねぇ……!
男はそれまで持っていた刀を身体に巻いた呪霊の口に入れ、代わりに十手の形をした短刀のようなものを取り出す。
そして目にも止まらぬ速さで五条に迫ってきた。
だが、こちらに来ると分かっていれば五条にとってはなんてことない。
自分との間に“蒼”を繰り出し、そちらに引き寄せ、更に横へ順繰りに切り替えていき建物の壁に叩きつける。
おそらく五条の無下限呪術を知った上で、理子の同化までの日数を逆算してプランを立て、不意打ちまで姿を現さなかったのだろう。
そこまで頭の回る奴が無策なわけがない。
特に今出したあの呪具……
これまで見たことのない異様な呪力を纏っている。
「虎の子かぁ?残念、近寄らせねぇよ」
しかし、叩きつけた場所にその男はもういない。
ト、トト、と不気味な程静かな足音だけが聞こえる。
呪力がないから気配も読めない。
勘頼り……なわけじゃねぇ。
アイツに巻きついている物を出し入れできる呪霊、そっちの気配を追えばいい。
即断して目を凝らすが、呪力の残像のようなものしか見えない。
……速すぎんだろ!!
「仕方ねぇな」
術式順転―
出力最大
―蒼―
自分の周囲を抉るように放ち、更地にする。
遮蔽物なし
奇襲はできない。
だが、視界が開けた周囲に男の姿はない。
「森に隠れたか」