第16章 断章 極彩
その日の夜、拉致犯と思しき者から黒井を助けたければ、理子を渡せと連絡が入った。
指定された時間は明日の午前11時、取引場所は―……
「……なんで沖縄?」
五条は疑問符を浮かべながら、犯人からのメール文面を何度も見るが、読み間違いではない。
「マジで意味分かんないんだけど」
夏油も同感のようで難しい顔で首を傾げている。
黒井が拉致されたのが今日の13時頃、今は21時だ。
羽田空港から那覇空港まで飛行機で約3時間、8時間あれば確かに行ける距離だが、拘束した女性を連れての移動がそんなスムーズにいくだろうか。
絶対飛行機に搭乗する時に怪しまれる。
いや、そもそも移動手段に飛行機を選ぶというのも意味不明だ。
しかし、車で移動するには時間が足りない。
「そういう呪術とか……?」
「ドコでも扉かよ、そんなのあってたまるか」
「あと考えられる可能性は黒井さんが沖縄以外の場所に連れて行かれたことだが……」
「いや、でもこの写真は沖縄で撮影したんだろ?……あ、背景を加工してんのか」
犯人の指示に添付された黒井の写真も確認するが、写り込んでいる電柱の住所は確かに沖縄のもの。
五条の言う通り、背景を加工すればできなくはないが……
「加工してまで連行場所を偽装する意味もないだろう。取引場所に黒井さんがいなかったら、そもそも人質交換が成り立たない」
「だよなー」
「……これ以上考えても仕方ないな。いずれにしろ私達が沖縄に行くことは変わらないんだ。どうやって行くかを決めよう」
もちろん自動車免許など持っていないので、車はなし。
フェリーも時間がかかりすぎる。
ここはやはり飛行機だろう。
理子を連れて行くことを考えると安全性も問題になってくる。
「ハイジャックされないように気をつけないとな」
「俺達相手にハイジャックできる奴がいたら逆に見てみたいね」
夏油も自分で言っておいてなんだが、2人で撃退できないハイジャック犯というのは想像できなかった。