第16章 断章 極彩
合流した夏油はバツが悪そう額に手を当てた。
「すまない、私のミスだ。敵側にとっての黒井さんの価値を見誤っていた」
黒井と分かれる時に呪力の気配を探り、周りに呪詛師がいないことを確認していたが、隠れていたか、それとも油断したところを非術師に襲われたかしたらしい。
黒井を1人にすべきではなかった。
「そうか?ミスって程のミスでもねーだろ」
対して五条は冷静に敵の次の手を推察する。
「相手は次、人質交換的な出方でくるだろ。天内と黒井さんのトレードとか、天内を殺さないと黒井さんを殺すとか……」
だが、取引の主導権はこちら側にある。
理子がこちらにいる限り、敵側は交渉材料である黒井を無闇に殺せない。
人質交換の場に黒井がいれば、理子を渡さずとも五条達で奪還できるし、もし犯人が黒井を隠した場合はゴネて連れて来させればいいだけ。
もっと言えば、素直に理子を連れて行く必要も薄いくらいだ。
「天内はこのまま高専に連れていく。硝子あたりに影武者やらせりゃいいだろ」
「ま、待て!!取引には妾も行くぞ!まだオマエらは信用できん!」
「あぁ?このガキ、この期に及んでまだ……」
「助けられたとしても、同化までに黒井が帰ってこなかったら?まだ、お別れも言ってないのに……!」
理子はスカートを握りしめ、懇願するように瞳を揺らす。
―同化後、彼女は高専最下層で結界の基となり、友人、家族、大切な人達とはもう会えなくなる―
経験したことはないが、夏油達と知り合ってから高専生活を面白おかしく過ごしている五条にもその辛さ、痛みは想像できた。
「……その内、拉致犯から連絡がくる」
夏油は断らなかった五条を意外そうに見るが、口は挟まない。
「もし、アッチの頭が予想より回って、天内を連れて行くことで黒井さんの生存率が下がるようなら、やっぱオマエは置いていく」
理子は滲む涙を拭い、気丈に五条を見上げた。
「分かった、それでいい」
「逆に言えば、途中でビビって帰りたくなってもシカトするからな。覚悟しとけ」