第16章 断章 極彩
「本体含め、MAX5体の分身術式。どれが本体かは常に自由に移動できるんだろ?本体が危うくなったら、安全な分身を本体にする」
最後の1人を睨む。
「破壊されたらしばらく分身は出せないのか……いい術式持ってんじゃん。なんでそんな弱いのか、意味分からん」
「なぜ俺の術式を知っている?」
「お生憎様、目がいいもんで」
五条はサングラスを外して六眼を露わにする。
「俺の術式はさ、収束する無限級数みたいなもんで、俺に近づくモノはどんどん遅くなって、結局俺まで辿り着くことはなくなるの」
外したサングラスを手に近づけると、一定の空間をあけてピタリと止まった。
「それを強化すると“無下限”……“負の自然数”ってとこかな、“-1個のリンゴ”みたいな虚構が生まれるんだ。そうするとさっきみたいな吸い込む反応が作れる。でも意外と不便なんだよね」
「あまり大きな反応は自分の近くには作れないし、指向性にまで気を遣い出すと呪力操作がまー面倒で、要は疲れんの……でもこれは全部順転の術式の話」
今度は自分の近くに“蒼”を発動し、ぐんと紙袋男を引き寄せる。
「こっちは無限の発散―」
術式反転
―赫―
「……?」
しかし何も起こらない。
「フッ……失敗!!」
笑いながらアッパーカットを決め、男を気絶させる。
「なんかできそうって思ったんだけどな」
頬を掻く五条を理子は呆れた目で見た。
マジでなんだコイツ……
五条達が夏油や黒井と合流すべく連絡を取ろうとすると、理子の携帯がメールの着信を知らせた。
差出人は黒井で画像が添付されている。
理子は何の疑いもなくその画像を開く。
が、その直後に画面を凝視して固まった。
「どっ、どうしよう、黒井が……黒井が!!」
そこには後ろ手に縛られ、猿轡をされた黒井が写っていた。