第16章 断章 極彩
女学院に侵入した紙袋男は報酬で何をしようかと思い浮かべて舌舐めずりした。
「3000万……今夜は鰻かな、人を殺して食う飯は美味いんだ」
まずはターゲットがどこにいるか探さないとな。
静まり返った敷地内を見回すと、校舎の屋根を走る2人の人物が目に入った。
サングラスをかけた白髪の少年とその少年に掴まれたセーラー服の少女。
少女の方は三つ編みにヘアバンドをしており、掲示板で見たターゲットに似ている。
「あぁん?」
ありゃ3000万か?
一緒にいるのは同業か……
ボディガードってこともあるか。
思案する紙袋男の後ろでカツと靴音が鳴った。
「盤星教の方でしょうか?」
背後に立った黒井がモップを構える。
「“Q”の人達は、もっと変な格好をしてますもんね」
「……素人か?殺る気なら黙って殺せよ」
手にした武器が掃除道具というお粗末ぶりに男はほくそ笑む。
非術師に近い女が多少呪力で強化した程度では紙袋男には遅く見えた。
走り出した黒井の顔めがけて拳が繰り出されるが、モップの柄で軌道を逸らすと、素早くモップを男の股間に叩き込む。
木製のモップといえど、呪力で強化されたそれで男の急所を打たれ、紙袋男は痛みに呻きながらうずくまった。
「お嬢様から何も奪うな。殺すぞ」
黒井が警戒を解かずに悶絶する男にモップを突きつけていると、その背後から感心したような口笛が聞こえてきた。
「なんだ強いじゃないですか」
口笛を吹いたのは夏油。
正体不明の1人が黒井と接触したため駆けつけたが、全然問題なかった。
「理子ちゃんは?」
「五条様と一緒に学校を出ました」
「じゃあ私達も向かいましょう。少し面倒なことになってます」
「ククッ、やっぱさっきのが3000万か」
そう言い残し、紙袋男はどろりと溶けた。
「式神!?」
「いや、式神とは少し違う」
夏油はすぐに五条に電話し、式神使いの老人から聞き出した情報を簡潔に伝える。
「万が一ということがあります!夏油様の方が速い。先にお嬢様の所へ!」
黒井に促され、夏油は五条と理子がいる方へ先行した。