第16章 断章 極彩
「五条様、礼拝堂はこの廊下を抜けた先です。私はこの上の階の音楽室へ向かいます」
校舎内の階段の前で五条とも分かれ、黒井は階段を上って音楽室へ続く廊下をひたすら走る。
理子は生まれた時から星漿体ということを隠し通さなければならない子供だった。
正体が明らかになってしまえば途端に命を狙われるからだ。
しかし、人の手以外にも命の危険はつきまとうもので、彼女がまだ幼稚園に通っていた頃、家族3人で乗っていた車が交通事故に遭った。
理子の命を狙って故意に引き起こされたものではないと結論づけられたが、この事故で理子は両親を失った。
それからはなるべく危険から遠ざけるように門限を厳しく設定したり、小学校の修学旅行を休ませたりと理子にたくさんの我慢を強いてきた。
周りの同年代の子と比べ不自由な生活だったろうに、彼女は黒井に不満をぶつけることもなく、少々お転婆ではあるが、健やかに育ってくれた。
もうこれ以上あの子から奪わせてなるものか……!
理子を守りたい一心で音楽室のドアを開く。
いない……!
そこには理子はおろか、人の姿もなかった。
理子は礼拝堂にいると確信し、黒井は踵を返す。
そのまま礼拝堂へ直行しようとしたが、ふと窓の外に不審な人物を発見した。
頭に紙袋を被った中背の男。
とてもではないが学校に普段いるような人間ではない。
理子の傍に五条がいるなら心配ないので、黒井は不審者の方へ向かうことを即決する。