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妖刀使いの臆病呪術師【呪術廻戦】

第16章 断章 極彩



こういう裏社会での仕事は信用がなければ成り立たない。
特に今回の仕事は孔から見ても非常に難易度が高く、甚爾が受けなければ仕事自体を断らざるを得なかっただろう。

それなのにコイツときたら、仲介人に仕事を押しつけ、自分は働かないときた。



「だから“削り”だよ。心配しなくても全額返ってくるさ、このレースみてぇにな」


―先頭6番波多野ゴールイン、1番洞口ゴールイン―


ポートレースの着順の知らせに甚爾は口を噤んだ。

ハズしたなと内心しながら、孔は立ち上がる。


「オメェは楽して稼ぐの向いてねぇよ」


不服そうな表情でクシャリと舟券を握り潰し、舌打ちした甚爾の肩を軽く叩く。


「頼むぜ、“術師殺し”」


それが裏社会での彼の異名。

呪術界の御三家、禪院家の出身でありながら、呪術師を殺すことを生業とする男。

この男がなぜ呪術師を目指さず、正反対であるこの仕事を選んだのかは、孔の知るところではない。


だが、それなりに長い付き合いになるので、彼の身辺のこと、幼い息子のことは少しばかり知っていた。


「ああそうだ、恵は元気か?」

「……誰だっけ」


最近見てないなと思い、何気なく投げかけた問いだったが、少しもピンと来ていない様子の甚爾に、冷たい奴だな、と苦笑を残して孔は競艇場を後にした。



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