第16章 断章 極彩
孔は頼まれた仕事を終え、姿が見えなくなった甚爾を探してとある競艇場に来ていた。
ぐるりと観戦席を見渡すと孔の予想通り、甚爾の姿を発見する。
「急にいなくなったと思ったら、何してんだよ?」
前の座席に足を掛け、レースを眺めている甚爾が指に挟んだ舟券を見せてきた。
「金を増やしてんのさ」
「オマエが勝ってんの見たことねーよ。仕事はどうした?」
「うっぜぇなぁ、人を無職みてぇに言いやがって」
「無職だろ。仲介役としてクライアントに仕事ぶりは報告しなきゃならんのよ」
暗殺を請け負った手前、請負人が競艇にかまけているとは絶対に言えない。
しかし、甚爾にはまだ動く気がないようだ。
「相手は五条家の坊だぞ。ノコノコ出て行った所で何もできねーさ。まずはバカ共を使って削る。……テメェこそ仕事しろよ」
「したわボケ。何考えてんだ?手付金全額手離すなんて」
この男は盤星教から受け取った手付金を全額孔に預けてあることを要求してきたのだ。
そのあることの内容もクライアントには絶対に漏らせない。やる気がないと契約を切られかねないからだ。