第16章 断章 極彩
「始まったな」
別のビルから星漿体とその護衛の様子を窺っている2つの影。
「盤星教には呪術師と戦う力がねぇ。でも金払いはいいぞ、それは保証する」
2人の内、スーツを着ている1人、韓国籍の孔 時雨(コン シウ)は、もう1人の男に顔を向ける。
「どうだ禪院、星漿体暗殺、一枚噛まないか?」
「もう禪院じゃねぇ、婿に入ったんでな。今は伏黒だ」
切れ長の鋭い目、口元の傷痕が印象的な男―伏黒 甚爾(とうじ)は薄く口角を上げる。
「いいぜ、その話受けてやる」
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星漿体の少女を助け出した夏油は、彼女とともに襲われたと思しき、メイド服を着た女性も救出し、ビル内の破壊されていない一室にいた。
セーラー服を着て、頭にヘアバンドをしているのが今回の護衛対象である天内 理子と思われるが、この女性に関しては理子の関係者なのか、呪詛師の襲撃に巻き込まれただけの赤の他人なのか分からない。
今は2人とも気絶しているので、どちらかが目を覚まさないと夏油には確かめようがなかった。
悟が来るのを待つか、とソファに腰掛けたところで、拘束した呪詛師が謝り出す。
「ごめんて!マジごめん!!この件から手を引く!呪詛師もやめる!!」
コークンは夏油の呪霊に捕まり、複数の顔に「チューしよ」と迫られるのを押さえながら、必死に夏油に交渉しようとする。
「勿論“Q”もだ!そうだ、田舎に帰って米を作ろう!!」
しかし、夏油は聞こえないフリで携帯電話を弄っている。
「聞こえてるだろ!?」
「呪詛師に農家が務まるかよ」
「聞こえてんじゃん!」
こちらには目もくれない夏油にコークンは怒り心頭、腹を括って舐めたりキスしたりしてくる呪霊から手を離して夏油を指差す。
「学生風情がナメやがって……!だが、ここにはバイエルさんが来ている!“Q”の最高戦力だ!オマエもそいつらも……」
「ねぇ、バイエルってこの人?」
遮られた上で携帯の画面を見せられる。
そこにはボコボコにされて伸びているバイエルと笑顔でピースするサングラスの学生が写っていた。
「……この人ですね」
“Q”最高戦力バイエルが離脱したことで、この組織は瓦解することとなる。