第16章 断章 極彩
「悪く思うなよ」
爆破して破壊したビルの壁の近くで星漿体の少女が落下していくのを“Q”の戦闘員であるコークンは眺めていた。
少女に恨みはないが、これも組織の大義のため。
「恨むなら天元を恨み……なっ!?」
突然飛来した黒い大きな何かが、落下していたはずの星漿体を横から攫い、コークンは瞠目する。
「目立つのは勘弁してくれ、今朝怒られたばかりなんだ」
マンタのような呪霊の背に乗った夏油が落下していた少女を救出し、ビルから少し離れた空中に留まった。
ビルに立つ呪詛師への警戒は解かず、腕に抱えた少女を確認する。
星漿体……と言われても、ごく普通の少女だ。
多少の擦り傷はあるが、大きな怪我はしていない。
「その制服、高専の術師だな?ガキを渡せ、さもなくば殺すぞ」
「聞こえないな、もっと近くで喋ってくれ」
夏油はわざと耳に手をかざして挑発した。
「いやぁ、セーフセーフ」
夏油が星漿体を救出したのを地上から眺めていた五条はおもむろに掌印をつくる。
次の瞬間、音もなく飛んできた複数のナイフが五条の周りでピタリと止まった。
「素晴らしい」
五条の視線の先には拍手する長髪の男。
“Q”の文字が入った軍帽を被り、黒いマスクをしている。
「君、五条 悟だろ。強いんだってね。噂が本当か確かめさせてくれよ」
身なりと口振りから呪詛師集団“Q”の戦闘員といったところか。
「いいけど、ルールを決めよう」
五条は無下限呪術を使ってナイフを引き寄せて潰す。
「ルール?」
「やり過ぎて怒られたくないからね……泣いて謝れば殺さないでやるよ。これがルールね」
「クソガキが」
呪詛師の睨みをものともせず、五条は余裕と自信を含んで笑った。