第16章 断章 極彩
「呪霊の発生を抑制するのは、何より人々の心の平穏だ。そのためにも目に見えない脅威は、極力秘匿しなければならないのさ。それだけじゃない……」
「分かった分かった」
2人の間で五条のサングラスを弄んでいた家入からサングラスを取り返し、五条はうんざりだと言わんばかりに目を細める。
「弱い奴等に気を遣うのは疲れるよ、ホント」
「“弱者生存”、それがあるべき社会の姿さ。弱きを助け強きを挫く、いいかい悟、呪術は非術師を守るためにある」
「それ正論?俺、正論嫌いなんだよね」
「……何?」
挑発的な五条の態度に夏油はムッと眉を寄せる。
「呪術に理由とか責任を乗っけんのはさ、それこそ弱者がやることだろ。ポジショントークで気持ち良くなってんじゃねーよ」
五条は舌を出し、反吐が出ると言わんばかりに顔を歪めている。
不穏な気配をいち早く察知した家入は、巻き込まれては堪らないと教室からそそくさと逃げ出した。
そして案の定、夏油は椅子から立ち上がり、自らの呪霊操術を発動させる。
「外で話そうか、悟」
「寂しんぼか?1人で行けよ」
五条も呪力を練りかけたところで、教室の扉が開いた。
夜蛾だ……!
「硝子はどうした?」
「さぁ?」
「便所でしょ」
また拳骨を食らうのは御免だと五条も夏油も即座に鉾を納め、何事もなかったかのように席に座って片肘をつく。
2人ともまるっきり同じ姿勢になっていることには夜蛾しか気づかない。
「まぁいい、この任務はオマエ達2人に行ってもらう」
教壇に立った夜蛾の一言に心底嫌だと2人は知らん顔をする。
「なんだその面は?」
「いや、別に」
後に続いた夜蛾の言葉は決して穏やかなものではなかった。
「正直荷が重いと思うが、天元様のご指名だ。依頼は2つ、“星漿体”天元様との適合者の少女の護衛と抹消だ」