第16章 断章 極彩
「飲み込むなよ。後で取り込む」
声の方に振り返ると五条と同じく高専の制服姿で長い黒髪を後ろでまとめ、前髪を一房だけ垂らした男子生徒―夏油 傑が歌姫の方へ下りてきていた。
「悟、弱い者イジメはよくないよ」
「強い奴イジメるバカがどこにいんだよ?」
五条はポケットに手を突っ込んだまま呆れている。
そんなやり取りを見て、冥冥がくすりと笑って指摘する。
「君の方がナチュラルに煽っているよ、夏油君」
「あっ」
発した言葉は取り消せない。
しまったと思った時には既に遅く、遠回しに弱いと言われた歌姫が凄まじい形相で夏油を睨んでいた。
そこへひょっこりと家入 硝子が顔を覗かせる。
「歌姫センパ〜イ、無事ですか〜?」
「硝子!」
「心配したんですよ、2日も連絡なかったから」
ヒラヒラと手を振る家入も五条や夏油と同じく高専2年生だ。
しかし、生意気な男子達とは大違い。
歌姫は可愛い後輩に抱きつく。
「硝子!アンタはあの2人みたいになっちゃ駄目よ!!」
「あはは、なりませんよ、あんなクズ共」
家入を抱きしめた状態で歌姫が首を傾げた。
「……2日?」
歌姫も冥冥もそんなに彷徨っていた自覚はない。
中で移動した時間も確かめたが30分程度だったはず。
「あー、やっぱ呪霊の結界で時間ズレてた系?珍しいけど、たまにあるよね。冥さんがいるのにおかしいと思ったんだ」
「そのようだね」
五条の推察にうなずいた冥冥は、辺りを見渡してあるはずのものがないことに気づく。
「それはそうと君達……帳は?」
……アッ……
五条、夏油、家入の高専2年生組は揃って固まった。