第15章 恋する乙女は突然に
それを否定しない虎杖になずなは二の句が継げなかった。
本来パチンコ店は18歳未満は入店も禁止されている。
しかし、虎杖の口調は初めてとは思えない小慣れたもの。
間違いなく複数回出入りしたことがある口振りだ。
固まったなずなをよそに虎杖の視線は優子へ向き、野薔薇の焦りは加速する。
「虎杖!!この子は……」
「小沢じゃん、奇遇ー。なにしてんの?」
ちゃんと覚えててくれて、気づいてくれた。
優子は嬉しくて泣きそうになる。
虎杖君、あの頃と全然変わらない。
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1年ほど前―
「じゃあさ、虎杖はクラスの女子で誰が好き?」
「別に誰も……」
「強いて!強いて!」
「……強いて言うなら、小沢」
壁を隔てて向こう側、教室からそんな会話が聞こえてきて、優子は立ち止まってしまった。
「えー、いやいや、ナイでしょ?デブじゃん」
すぐに返ってきた容赦ないその言葉はザクリと優子の心を切りつける。
男の子は皆そう言う。
だから、極力関わらないように、クラスでも目立たないように気をつけてきた。
そして、自分を守るために悪口を言われたらすぐ逃げるようにも。
だけど、この時ばかりは虎杖君の返答が気になって動けなかった。
「そう?でもさアイツ、食い方とか字とか色々、すげー綺麗なんだよ」
その言葉が本当に嬉しくて……
トクリと小さく高鳴った胸。
きっと私はその時、恋に落ちた。