第14章 最強の教示
「簡易領域、見たことある?シン・陰流とかがそれなんだけど……直近だと交流会の時、京都校の……誰だっけ、前髪特徴的な子が使ってたヤツ」
「み、見たことないです……」
京都校の前髪が特徴的な生徒と言われると、おそらく2年生の三輪だろうということは分かる。
ただ、団体戦では戦闘になるどころか、狗巻が呪言をかけて遠隔で眠らせてしまったので、どんな術式だったかは全く分からない。
しかし、なずなも簡易領域がどういうものか知識としては知っていた。
呪術の究極、必中必殺の領域展開から身を守る数少ない術のひとつ。
平安時代に編み出されたといわれる結界術だ。
結界術のため、術式を持たない者でも使うことができる。
簡易領域を作れるようになったら、自分も皆の役に立てるかもしれない……!
心の中で意気込むなずなの正面で五条は顎に手を当てている。
「……となると1回見た方がいいね、今度日下部さんに声かけとくから」
「あ、あの、日下部さんって……?」
「2年の担任。シン・陰使いなの」
当初は黒閃を発動するための土台、なずなの呪力出力を上げる目的で始めた特訓だったが、簡易領域を作り出せるようになるのなら、それはそれで良い。
領域展開を会得している特級呪霊が徒党を組んでいる状況だ。
領域対策ができれば今後役に立つ場面が絶対に出てくる。
「鬼切の呪力を馴染ませるのはちょっとずつだけどできてきてるよ。けどあともう一段上に行きたいね」
人差し指を立てて解説する五条のポケットから唐突に着信を知らせるバイブレータ音が聞こえてきた。
「あ、あの……」
「僕の術式を中和した時のイメージで鬼切の呪力をなずな自身の呪力として使うこと」
なずなが電話が鳴っていることを教えようとするが、五条はそれに被せる形で話を続ける。
なずなに聞こえている着信音が五条に聞こえていないはずない。着信を無視するつもりだ。