第14章 最強の教示
「私、強くなりたい……いざという時に皆を守れるくらい」
「だからって、そんなに傷ついてまで急ぐことないだろ。人に鬼切を向けるのが難しいなら、呪霊相手の任務だけに絞ってもらえばいいし……だから、あんま無理するな」
伏黒の言葉はふわりと柔らかくなずなの胸に沁み、肩や手に無意識に入っていた力も抜けていく。
「ぁ、ありがとう……すごく、嬉しい」
ふにゃりと笑ったなずなだったが、その後ゆっくりと首を横に振った。
なずなの脳裏をよぎるのは、八十八橋で倒れて動かない伏黒の姿。
あの時は死んでしまったかもしれないという恐怖で動けなかったが、今後もおそらくこういった事態が起こる。
呪術師というのはそういう職業だ。
呪術師になることを選んだ時点で避けられないのであれば、あとはいかに事態を防ぐかにかかってくる。
「……でもダメ、その時はいつ来るか分からないもの。もし急にその時が来て弱いままだったら、私は絶対に後悔する」
伏黒にもその気持ちは痛いほどよく分かる。
少年院の時も、梔子駅の時も、交流会の時も己の弱さを突きつけられた。
もっと強かったらこんなことにはならなかったかもしれないのに、という後悔は真新しく記憶されている。
だが、それと同時になずなにこれ以上傷ついてほしくないという思いもあった。
彼女が怪我をしていたり、泣いていたりすると、どうしようもなく胸が掻き乱される。
自動的に治るからといっても痛いことに変わりないのに。
なずなはどんどん自分の身を顧みなくなっている気がする。
なんとなく嫌な予感がするのだ。
いつか取り返しのつかないことになるのではないか、と―……
一抹の不安を抱きながら、伏黒は寮に帰っていくなずなの小さな背中を見送った。