第14章 最強の教示
以前、伏黒がなずなを相手にした体術訓練で彼女の動きが鈍った時、真希は人間相手に動けなかったら、なずなの命に関わると言っていた。
伏黒もそれには同意だが、彼女はまだ三級術師だ。呪詛師を相手にする任務はほとんど回ってこない。
呪詛師を殺せないなら、呪霊祓除の任務だけ受けられるように配慮してもらうこともできる。
制度的に難しくても伊地知あたりに言えば、それとなく任務を選別してくれると思うし、自分達の担任が通している凄まじい我儘の数々に比べたら些細なことだろう。
その上でなずなが受けられないような内容の任務が出てきた場合、伏黒が肩代わりしてもいいとさえ思う。
あの時、人を殺した感触を手が覚えていると、胸がずっと痛くて苦しいと泣いた彼女が罪の意識を飲み下す……ことはできないかもしれないが、少なくとも自分を傷つけずに向き合えるようになるまで、時間がかかっても待ってやりたい。
伏黒は自分でも知らないうちにそう思うようになっていた。
しかし、続いたなずなの言葉はそんな伏黒の思いに反するものだった。
「……でも、このままじゃ皆の足を引っ張っちゃう。それは嫌なの」
なずなの口をついて出てきたのは、自分の中にある焦燥。
今回稽古をつけてもらおうと思い立ったキッカケでもある。
皆と肩を並べるためだったら、このくらいの痛みなんて大したことないと思える程、なずなは焦っていた。