第14章 最強の教示
「鬼切貸して」
やれやれと頭を掻きながら、半ば引ったくるように鬼切を取り上げ、遠慮なく自分の腕に振り下ろす。
が、刃が腕に届くことはなく、少し空間を残して止まった。
ビクリと肩を揺らして息を呑んだなずなに五条は続ける。
「言っとくけど、僕が寸止めしているわけじゃないよ。これが僕の無下限呪術。全身にこの術式を発動してるから、なずなは僕の髪1本だって切れやしない。だから本気で来い」
「は、はい……!」
なずなに鬼切を返し、稽古再開。
鬼切では五条を傷つけることはできない。
それを分からせれば、なずなも安心して本気を出せる……と思ったのだが、彼女の動きはまだ硬かった。
煮え切らないなずなの様子に五条はため息をつきたくなってくる。
そこそこ強い呪霊とかがいればちょうどいいんだろうけど、そんな都合よくもいかない。
こうなったらちょーっと追い込んでみるしかないかな。
五条はポケットからあるものを取り出して、なずなの頭から被せた。
「ハイこれ」
突然なずなの視界が真っ暗になる。
「な、なんですか……?」
「僕のアイマスク。なずな、それを着けたまま、手合わせするよ。もちろん鬼切で」
目隠しされ、怯えたように固まっているなずなとの距離を詰め、その耳元で諭す。
「大丈夫、僕に鬼切は絶対届かないから」
今まで前から聞こえていた声が急に真横から聞こえ、なずなが隣まで迫った五条の方に振り向くと同時に五条の蹴りが入った。
「……っ!?」
なずなが壁際まで飛ばされたのを見て、五条はその軽さに少し驚く。
が、きちんと受け身をとって立ち上がったなずなに目を細めた。
「鬼切は呪力を感知できるんだろ?ほら、僕の呪力を探すんだ。もっと集中して」
なずなを追い込んでいくため、あえて少し強めの言葉を選ぶ。
一度は人間相手に本気で鬼切を振るうことができたのだ。
追い詰められれば必ずもう一度できる。