第13章 八十八橋の呪詛
「あれ、渡辺は?」
壊相の遺体を担いで戻ってきた虎杖の声には少し覇気がない。
「先に伏黒のとこに行かせたわ」
「釘崎は大丈夫か?」
「あー……まぁね、痕は残るかもね。あのオッサン大丈夫かしら?車行っちゃったし……毒の方は……まぁ、うん、今から帰って硝子さん起きてるかな?そんでシラフかな?」
止血しながら答える野薔薇は至って普通の様子だが、虎杖はそういうつもりで聞いたわけではなかった。
「そうじゃなくて……初めてなんじゃねぇかと思って……祓ったんじゃなくて、殺したの」
「……アンタは?」
「俺は、前に一度……いや、アレを一度って言うのはズルか……3人だ」
ツギハギ顔の人型呪霊の術式で魂の形を変えられた誰か……
里桜高校で襲ってきた3人を、虎杖は殺めている。
「私よりアンタの方が大丈夫じゃないでしょ」
虎杖の痛ましい表情を指摘する。
「私はぶっちゃけなんともない。術師やってりゃ、こういうこともあんでしょ……伏黒じゃないけどさ、結局助けられる人間なんて限りがあんのよ」
夜空に浮かぶ三日月を見上げて野薔薇は続ける。
「私の人生の席……っていうか、そこに座ってない人間に私の心をどうこうされたくないのよね……冷たい?ま、アンタみたいに、自分で椅子持ってきて座ってる奴もいるけどね」
それでも虎杖はどこか腑に落ちないようで、目を泳がせている。
「フォローするわけじゃないけど、呪霊か呪詛師か、気にしてる余裕なかったじゃん。呪詛師……人間だとして、あのレベルのを長期間拘束する術はない。分かってんでしょ?」
「……でもアイツ、泣いたんだよ。目の前で弟が死んで……」
「……そっか」
「俺は自分が……釘崎や渡辺が助かって……生きてて嬉しい、ホッとしてる」
だが同時に、敵として対峙した彼らにもそういう心があったのだと思わずにはいられない。
「それでも俺が殺した命の中に、涙はあったんだなって……それだけ」
「……そっか、じゃあ……」
「共犯ね、私達」
せめてもと殺めた2人を寄り添わせるように安置して、虎杖達は橋の下を目指した。