第13章 八十八橋の呪詛
肩から千切れた右腕を壊相は愕然と見つめる。
なんだ今の黒い光は!?
私は確かに、確実に呪力で強化した腕で拳を受けた。
だが、気づけば肩ごと飛ばされていた……!
壊相は血塗の方に視線を走らせる。
金槌を手にした野薔薇の向こう側―
頭部にダメージを受け、倒れ伏した血塗は動かない。
ああ弟よ……
死ぬな、弟よ!!
150年、息絶えずに封印を保てたのはここには来ていない兄と血塗のお陰だというのに。
「あ゛兄者ァアアア゛!」
壊相の祈りが通じたのか、起き上がった血塗は大きく口を開けて、野薔薇に襲いかかった。
虎杖もなずなも咄嗟に足が動かない。
「……まだこっちは見せてなかったわね」
ただ1人、野薔薇は落ち着き払った表情で指を鳴らす。
―簪―
血塗に刺さった五寸釘を通して野薔薇の呪力が弾ける。
内部で弾けた呪力に耐えきれず、血塗の身体は真っ二つに裂け、野薔薇の前に斃れた。
「心配しなくても、すぐに兄貴も送ってやるわ」
「血塗……」
壊相は目の前で起きた出来事に呆然と弟の名を呟くことしかできなかった。
ごめん兄さん、私がついていながら―……
壊相の目から涙が溢れる。
想定外のその涙に思わず虎杖の追撃の手が緩む。
一方で、斃れた血塗が消えないことを野薔薇は訝しんだ。
コイツ、なんで消えない!?
まだ生きて……?
違う、呪霊じゃない、肉体があるんだ。
呪霊だと思っていたが、これはおそらく受肉体、もともとは人間だ……!
「野薔薇ちゃん、危ないっ!」
固まる野薔薇をなずなが強引に引っ張った。
背後のトンネルからライトの光とブレーキ音。
続いて軽トラックが蛇行しながら走り抜ける。
危うく轢かれるところだった。
なずなに道路の端まで引っ張られた形になり、接触せずに済む。
野薔薇となずなは走り去る軽トラックに目を向け、同時に瞠目する。
隙をつかれた……!
2人の視線は軽トラックの荷台に―……
そこには壊相が乗っていた。