第13章 八十八橋の呪詛
血塗の方は、手足の断面から流れ出た血が固まり、腕と足の形を作って再生しようとしているが、それより早くなずなが追撃する。
「ぁ、あ、兄者ぁ……」
懇願するような弱々しい血塗の声。
同時に壊相の脳裏に兄の言葉が響く。
―俺達は3人でひとつだ―
その瞬間、虎杖と野薔薇に浮かんでいた紋様が崩れるように消え失せた。
2人を蝕んでいた術式が解けたのだ。
野薔薇が血塗を倒さんと走り出し、鋭さの増した虎杖が壊相を捉える。
解く気など全くなかったのに、気づいたら術式を解いていた。しかし壊相もただでは起きない。
“朽”を解いたことで使えるようになった攻撃を繰り出す。
「翅王!」
再び広がった赤い翅は片方が虎杖、もう片方が野薔薇となずなを狙って伸ばされる。
虎杖は軌道を見極めて避けていくが、なずな達の方には手が届かない。
「野薔薇ちゃんっ!!」
なずなは翅王を掻い潜り、鬼切でガードレールを一部切断し、野薔薇に迫る翅王を阻むように投げた。
少しでいい、ほんの少しだけでもあの血を遮ってくれれば……!
血塗に向かっている野薔薇は背後に迫る翅王にもなずなの声にも気づかない。
眼前に迫る血塗を狙って五寸釘を投げ上げ、呪力を込める。
瀬戸際の集中―
野薔薇の中にまだ毒は残っている。
だが術式が解け、晴れた痛みでより深く意識は研ぎ澄まされていく。
その先で爆ぜる100万分の1の火花。
虎杖も思考を切り替える。
釘崎に“翅王”が届く前に眼前の敵を仕留める。
“誠心”
虎杖 悠仁の本領。
禪院 真希を凌ぐ身体能力、格闘センス
そこに与えられた呪いの力。
彼は、黒い火花に愛されている。
瞬間、虎杖と野薔薇の呪力が黒く迸る。
― 黒 閃 ―
壊相の右腕が弾け飛び、血塗の上頭部が吹き飛んだ。