第13章 八十八橋の呪詛
「粘膜、傷口、私達兄弟どちらかの血を取り込み、私達兄弟どちらかが術式を発動すれば、侵入箇所から腐蝕が始まります」
術式を開示しながら壊相は内心で笑んだ。
2人が術式にかかった。
残るは刀を持った少女と宿儺の指の寄主を祓ったと思しき術師。
少女は血塗が振り切ったようだし、不明の術師も万全の状態ではないだろう。
この2人を“朽”で処理してしまえば、指の回収も容易い。
「そちらの少年はもって15分、お嬢さんの方は10分が限界でしょう。朝には骨しか残りませんよ」
余裕を見せる壊相とガードレールを越えて車道に出てきた血塗を虎杖が睨む。
術式ってことは、解除させちまえばいいわけだ。
「やっぱ毒か?」
「結果有毒なだけであって、私達の術式はあくまで“分解”ですよ」
術式が開示されているため、実際は死に至るまでもっと早いだろう。
「さて、どうします?」
そう尋ねながら、壊相はここにはいない長兄を思った。
―兄さん、呪術師は大したことないよ―
―明治の始め、呪霊の子を孕む特異体質の娘がいた。
呪霊と人間の混血、異形の子。
身に覚えのない懐妊に始まり、親類縁者からの風当たりは常軌を逸し、彼女は子の亡骸を抱え、山向こうの寺へと駆け込む。
その寺はある呪術師が開いたものだったが、その時点で彼女の運は尽きてしまう。
加茂 憲倫―
多くの呪術文化財と共に、史上最悪の術師として名を残す御三家の汚点。
彼の知的好奇心は、呪霊と人間との間に産まれた子の虜となる。
九度の懐妊―
九度の堕胎―
それらがどのように行われ、その後彼女がどうなってしまったのか、一切の記録は破棄されている。
呪胎九相図 1番〜3番
特級に分類されるほどの呪物。
その呪力の起源は母の恨みか、それとも―……