第13章 八十八橋の呪詛
虎杖は野薔薇を抱えて林を抜け、車道に飛び出した。
背中からガードレールにぶつかって少し呻く。
翅王の血は限界射程なのか、林を出てすぐのところで動きを止めていた。
「うっし、射程外だな」
とりあえずは逃げ切った。
当面の危機は去ったと見て、野薔薇は虎杖の腕から抜ける。
「……よくやった。褒めてつかわす」
「ヘイヘイ」
「嘘、アリガト」
冗談めかした野薔薇のお礼を聞いていると、ふと背後からなずなの声がしたような気がした。
だが虎杖の背後は舗装された斜面のはず―……
振り向くとそこには待ち構えていた血塗が頬を膨らませていた。
「っ!?」
虎杖は咄嗟に野薔薇の肩を突き飛ばす。
虎杖自身が避ける暇はなかった。
次の瞬間、血塗が吐いた血を頭から被ってしまう。
右目はなんとかガードしたが、左目はモロに被った。
最短距離で先回りされた……!
「虎杖!」
駆け寄ろうとした野薔薇の左腕にも衝撃。
「―ッツ!!」
制服の袖は一瞬で溶け、毒血が腕を蝕む。
「釘崎!」
いつの間にか壊相も道路に降り立っている。
翅王が届かないことに油断していて、距離を詰められていたことに気づかなかった。
「心配しなくても、弟の血に私のような性質はありませんよ。私のだって全身に浴びでもしない限り、死にはしません。まぁ死ぬ程痛みますがね」
壊相が小指を立てる。
「私達の術式はここからです」
蝕爛腐術
―朽―
虎杖の左目から首にかけて、野薔薇の左腕全体から左頬にかけて薔薇の模様が浮き出る。
「ッ!!」
紋様の部分から形容し難い激痛が広がっていく。