第13章 八十八橋の呪詛
迂闊だった。
まんまと敵の策に嵌ってしまった……!
斜面の下の平地まで滑り落ちたなずなは、再び血塗を追い始めた。
走りながら、カーブミラーに映った光景を思い返す。
呪霊はカメラには映らないことが知られている。
鏡はそれとは少し異なり、鏡か目視のどちらかで見えないというのが一般的だ。
鏡に映っているのに振り返っても何も見えなかったり、逆に目視できるのに鏡には映っていないというもの……
血塗は確かに目視できている。
もし呪霊だったら、鏡……つまりカーブミラーに映らないことが多いのだ。
まさか……
頭をもたげる疑問に首を振り、今はそれどころじゃないと追跡に集中する。
まだ見失ってはいないが、だいぶ離され、斜面を駆けている小さな姿を下から追うしかなくなっている。
どこへ行くのか判然としないが、いずれこの斜面を登って追いつかないといけない。
滑り落ちずに斜面を横に走るのは無理でも、助走をつければ上に登るくらいはできるはず。
なずながそんな算段をしていると、急に血塗が動きを止めた。
なんで?
そこには何も……
何の変哲もない車道だ。
近くにトンネルがある以外目立つものはない。
しかし、血塗は斜面に留まって動かなくなった。
理由は分からないがチャンスだ。
相手が止まっている内に距離を詰める。
なずなが足を止めずにどこから登ろうか思案し始めたところで、血塗が留まっている場所の更に上の林から何かが勢いよく飛び出してきた。
それはガードレールにぶつかって止まる。
まず目に留まったのが赤いパーカーのフード。
虎杖くんの制服だ……!
近くに野薔薇ちゃんもいる。
だが、2人とも背後に潜んだ血塗には全然気づいていない。
どう足掻いても追いつけないなずなは大きく息を吸って叫んだ。
「虎杖くん!後ろっ!!」