第13章 八十八橋の呪詛
前を行くなずなの背中がだんだんと小さくなるのを見ながら、虎杖は並走する野薔薇に呼びかけた。
「釘崎、もっとスピード出せるか!?」
「無理!」
野薔薇も必死に足を動かしているが、足元が悪い。石だらけの川岸ではこれ以上早く走れない。
逃げる野薔薇よりも壊相の血の方が速く、彼女の頭部目がけて迫り来る。
まずいと思った瞬間、石に足を取られて転んでしまった。
辛くも血からは逃れたが、立ち上がる前に追撃が迫ってくる。
ヤバッ……!
そう思った瞬間にふわりと身体が浮いた。
虎杖が野薔薇を抱え、間一髪で壊相の追撃を躱す。
野薔薇も抱えられた方が早く逃げられると判断して虎杖に掴まった。
「背中は任せろ」
「頼んだ」
虎杖が地面を力強く蹴り出し、凄まじいスピードで走り始める。
人間離れした速度に野薔薇が驚愕するのもそこそこにどんどん壊相は遠ざかっていく。
虎杖に抱えられて逃げる中、野薔薇は周囲に目を走らせた。
「ねぇ、なずなは!?」
こんな時に、こんなところで迷子なんて洒落にならない。
だが、焦る野薔薇に対して虎杖は冷静だった。
「さっき弟の方追っかけてった。たぶん大丈夫だ!」
敵の呪術―翅王はこちらに集中しているし、弟の方は口からしか血を吐かない。
それに障害物の多い林の中だ。もし血を吐かれても、なずなだけで十分避けられる。