第13章 八十八橋の呪詛
ビリッと寒気のようなものが野薔薇の背筋を走った。
なずなも同じものを感じ、閉じていた目を見開いている。
急に現れた大きな気配―
この気配をなずなは知っている。
少年院で一度感じたことがある。
宿儺の指だ。
橋の呪霊が宿儺の指を取り込んでいて、祓われたから結界の外に出てきたと考えるのが妥当だろう。
目の前の男は宿儺の指が目的だと言っていた。
そしてもう一つ気になるのは“我々”と言ったこと。彼には目的を同じくする仲間がいる。
だとすると、結界に入った直後に襲ってきた大きな口を持った呪霊がその仲間なのだろうか。
野薔薇達と対峙した男―壊相もその気配を察知したようで、考えるように顎に手を当てている。
もし指の寄主を祓ったのが術師だとしたら、中々に手強そうだ。
持ち帰られても面倒、ならば呪霊を祓って油断している今が好機だ。
壊相は目を細めると、野薔薇達の方を向いたまま、突然兎飛びで距離を取り始めた。
「失言。私が話したことは忘れて下さい」
「待って!」
なずなが鋭く制止するが、そんなことでは止まらなかった。
宿儺の指を取り込んだ、特級相当の呪霊を虎杖と伏黒が祓ったのだとしても、2人が無傷で済むとは考えにくい。
この男を指の所へ行かせるわけにはいかない。
お互い顔を見合わせることもなく、同じ結論に至った野薔薇となずなは、それぞれ金槌と鬼切を片手に追いかける。
「ナメた走り方しやがって。そんなんでちぎれると思ってんのかよ」
野薔薇の挑発通り、兎飛びで後ろ向きに進む相手は、2人でも十分に追いつける速さだ。
なずなが先行して仕掛ける。
しかし、振るった鬼切は身を捻って柔軟に避けられた。
見かけによらず身体が柔らかい。
「……私、自分の背中がコンプレックスでして……警告です、私の背中を見たら殺しますよ」
連続で繰り出されるなずなの攻撃をものともせず、壊相はゆったりとした口調で警告する。