第13章 八十八橋の呪詛
池澤というのは、伏黒にとって不愉快極まりない生徒の1人だ。同じような連中とつるんで、おとなしそうな生徒に目をつけ、腕節にものを言わせて圧力をかけるヤツ。
気に食わなかったから殴り飛ばし、今は校庭で伸びている。
そのまま教室に戻ろうと歩いていると、不意に後ろから声をかけられた。
「恵」
振り向くと今一番会いたくない人物―
姉の津美紀が眉を寄せている。
「もう喧嘩しないって言ったよね」
「保護者ヅラすんな」
小さく舌打ちし、吐き捨てるように言い放った。
先程捻ったヤツらは単に見ているだけで苛つくが、津美紀は津美紀で言いようもない居心地の悪さを感じる。
悪人が嫌いだ。
更地みてぇな想像力と感受性で、一丁前に息をしやがる。
善人が苦手だ。
そんな悪人を許してしまう。
許すことを格調高く捉えてる、吐き気がする。
津美紀は典型的善人。
いつもいつも綺麗事ばかり言う。
この前も「喧嘩をしない」と無理やり約束させられたばかりだ。
俺が喧嘩相手に選ぶような悪人なんて擁護してやる余地なんかミリもないのに。
「気持ち悪ィ」
フイと津美紀から視線を逸らす。
と、後頭部に軽い衝撃と液体がバシャリとかかってきた。
甘い匂いが鼻をつく。
「あ、ゴメン……中身が出るとは……」
津美紀は気まずそうに謝ってくる。
彼女が手に持っていたいちごオレを投げつけ、中身までかかったのだ。
「ちょ、津美紀!アンタ何してんの!?」
音を聞きつけた津美紀の友人も驚いて出てきた。
津美紀はバツが悪そうに顔をしかめている。
「なんでもない」
「ねぇ、それより肝試しの件、考えてくれた?」
「行きたくないけど、心配だからついてくよ」
去っていく津美紀の後ろ姿がジジジと乱れる。