第13章 八十八橋の呪詛
薄れゆく意識の中、懐かしい景色を見た。
2年前のあの日―
伏黒は苛立っていた。
「他人と関わる上での最低限のルール、分かるか?」
「……分かりません」
下から聞こえてきた情けない返事に、呆れながら額を掻く。
「私はあなたを殺しません。だからあなたも私を殺さないで下さい、だ」
伏黒が座っているのは倒れた生徒達の上。
自身の癪に障った連中をまとめて叩きのめし、倒れて折り重なった彼らの上に座っていたのだ。
「“殺し”を何に置き換えてもいい。要は相手の尊厳を脅かさない線引き、互いの実在を成す過程、それが“ルール”だ」
わざと踏みつけるようにしてその山を下りる。
「それを破って威張って、腫れ物みたいに扱われて、さぞ居心地が良かったろうな。……次、俺の前でやったら殺すからな」
「……俺ら、オマエに何かしたか?」
比較的軽傷な生徒の1人が問いに伏黒は振り向きもせずに答えた。
「テメェで考えろ。それか死ね」
校務員の武田がコラーッと校舎から走って出てくるのが見えた。
ここで捕まると確実に説教だ。それは少々面倒くさい。
素知らぬ顔で校舎に戻る。
そのまま教室に戻ろうとすると自販機の前で男子生徒3人とすれ違った。
「きょっきょきょきょ今日こそ池澤達に言ってやる!僕はオマエらのパシリじゃないって!」
眼鏡を掛けた小柄な生徒が息巻いている。
「頑張れ、相田氏!」
「でも次のターゲットが俺になっちゃうかもだから、頑張りすぎるな相田氏!」
それを応援する中背の生徒と臆病風を吹かせる小太りな生徒。
眼鏡は聞き捨てならないその言葉に怒り心頭のようだ。
「おいデブ、コラ!セリフ変更だ!このデブが今日から僕の代わりですって言ってやる!」
「友を売るのか、相田氏!?」
「うるせーっ!!」
「……あれ?あそこで倒れてるの、池澤達じゃ……」
伏黒は特に気にも留めず、騒いでいる3人の前を素通りする。