第13章 八十八橋の呪詛
周りの岩壁はそのまま、地面にだけ黒々とした影の海が広がり、波打った。
閉じられていない領域に思わず笑ってしまう。
不完全。
不細工もいいとこだ!
だが今はコレでいい!!
呪霊の足が影に沈み、幾匹もの蝦蟇がそこに絡みつき、機動力を奪う。
凄まじい呪力消費に目から耳から血が出てくるが、不思議と痛みは感じない。
流血に構わず呪霊に蹴りを入れる。
もっと自由に、広げろ!
術式の解釈を!!
呪霊は再度引き伸ばした呪力を撃ってきた。
ガードした手を突き抜けて伏黒の額を貫通してくるが、次の瞬間にはどろりと崩れて影となる。
影の海に沈んだその後ろから2羽の鵺が飛来する。
鵺はそのまま呪霊を翼で打ち、電撃を食らわせた。
影の海から溢れる式神と攻撃しても影になってダメージが入らない伏黒。
領域内では不利とみたのか、呪霊は全身から呪力を放出し、影の海を一気に吹き飛ばした。
跡形もなく消し飛んだ影にアハッと嗤う呪霊。
直後、ドスッと鈍い衝撃を受ける。
「玉犬・渾の爪はアレにも傷をつけた」
呪霊が背後に振り向くと、血塗れの伏黒と上半身だけ影から出た渾、その爪は呪霊の胸を突き破り、宿儺の指を握っていた。
「不意のオマエを貫くくらい訳無いさ」
じわりと呪霊の姿が崩れ、同時に結界も解けていく。
「……疲れた」
頭に靄がかかったように思考が重い。
周りの景色は夜の八十八橋の川岸に戻ったが、先に外に出ていたはずの3人の気配はない。
……どこだよ、アイツら……
探そうにも領域展開した呪力消費とその前に受けた怪我で伏黒は立ち上がることができず、その場に倒れ込んでしまった。
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「いい」
一部始終を己の指を通じて見ていた宿儺は、自身の生得領域の中で満足げに片目を閉じた。
「それでいい」
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