第13章 八十八橋の呪詛
あの時と違うのはここにいる術師が自分だけということ。
そして、この呪霊は何が何でも今ここで祓わなければならない存在だということ。
……ここまで、だな。
観念して両手をそれぞれ握り、言を唱える。
「布瑠部―……」
伏黒に刻まれた禪院家相伝の術式・十種影法術の奥の手。
立ち昇り始めた異様な呪力に特級呪霊が息を呑んで後退った。
―宝の持ち腐れだな―
不意に少年院で宿儺に言われた言葉が蘇り、唱える口が止まった。
何故今その言葉を思い出したのか、よく分からない。
だが―……
少し未来の強くなった自分―
あの時既に宿儺はそれを知っていた。
そして、自分にはまだ分からないことが心底釈然としない。
「やめだ」
伏黒は拳を解き、両手を上げる。
戸惑いを見せる呪霊は気にも留めない。
―オマエ、あの時何故逃げた?―
伏黒の脳裏に宿儺の言葉が呪いのように響いた。
「影の奥行きをすべて吐き出す……具体的なアウトラインは後回し、呪力を練ったそばから押し出していけ―……」
普段の論理的な思考とはかけ離れたソレ。
やり方なんて知らなかったが、腹の底から沸々と湧き上がる感覚に従って両手の指を組み、下に向ける。
イメージしろ……自由に!
限界を超えた 未来の自分を!!
「やってやるよ……!」
―領域展開―
足元から影が洪水のように溢れ出す。
「嵌合暗翳庭(カンゴウアンエイテイ)」