第3章 彼の心配の種
任務から帰ってきた伏黒は、乙骨から衝撃的な事実を告げられた。
「え、渡辺に呪言をかけたんですか?」
呪言はかける相手によっては重い反動がくる代物だ。
故に狗巻は相手も自分も守るために語彙を絞っている。
目を丸くする伏黒に乙骨は笑いながら答える。
「大丈夫だよ。限定的な呪言だし、何より渡辺さん自身も望んでいたことだったから反動もほとんどなかったし……僕じゃ呪言の範囲を絞れないから、狗巻君にも協力してもらったけど」
狗巻やパンダと話していたなずなが、乙骨と伏黒の方に小走りで向かってきた。
「伏黒くんが先輩達に相談してくれてたんだってね、本当にありがとう!」
初めて見るなずなの花が綻ぶような笑顔に、伏黒は一瞬目を奪われた。
それからしばらくした6月のある日。
「伏黒くん、今日も任務なの?」
ちょうど学校を出ようとしていた伏黒になずなが声を掛けた。
「ああ、特級呪物の回収。仙台まで行くから、多分今日中には戻ってこれない。もし迷子になったら、先輩達に……」
「もう1人でも迷子にならないよ。心配しなくても大丈夫」
少なくとも学校内で迷子になることはないし、任務で外に行くことになっても、四級呪術師のなずなにはまだ単独任務は振られない。
伏黒の心配は杞憂というものだ。
「伏黒くんも気をつけて行ってきてね」