第3章 彼の心配の種
なずなは朝からグラウンドに連れ出されていた。
隣には乙骨と狗巻がいる。
伏黒は任務で不在だ。
自習になって何をしようと考えていたら、先輩達に呼び出された。
「急に呼び出してごめんね。伏黒君から渡辺さんがよく学校で迷ってるって聞いて、もしかしたら助けになれるんじゃないかと思って」
乙骨から何かのリーフレットを渡される。
「これは……地図ですか?」
「うん、高専の学長室や教室、学生寮とか主要な建物が載ってる構内図だよ」
天元の結界の働きで毎日配置が変わる建物は省いてあるものだ。
「渡辺さんがよく迷子になるのは、ここの結界の影響で建物の配置が毎日入れ替わるからだと思うんだ」
「で、でも私、地図もあんまり読めなくて……」
なずなは自信なく眉を八の字にする。
自分でももうちょっと地図が読めれば、こんなに苦労しないのにと思うことが多いのだ。
「それも心配いらないよ。ね、狗巻君」
「ツナマヨ!」
狗巻が親指を立てる。
「さぁ、それを見ていて」
疑問符を浮かべたまま、乙骨の指示通りになずなは構内図に目を落とす。
『構内図を理解しろ』
「!」
なずなが驚いて顔を上げると、口元を露わにした狗巻と目が合う。
狗巻はすぐに上着のチャックを上げて口を隠した。
「今の……?」
「狗巻君の呪言だよ。これで学校内で迷うことはまずなくなると思うんだけど……試しにちょっと歩いてみようか。ここから医務室までの道は分かる?」
ここはグラウンド、医務室へ行くには……
なずなの頭の中に医務室までのルートが浮かぶ。
「……分かります!今までこんなことなかったのに、すごいです!」
パァッと目を輝かせる。
その後、教室や食堂、学長室をなずなの案内で回る中、一度も迷うことはなかった。
「乙骨先輩、狗巻先輩、本当にありがとうございます。……なんとお礼を言ったらいいか……!」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。僕らも渡辺さんの助けになれてよかったと思ってるし」
「しゃけしゃけ」
それでは自分の気が済まないと深く頭を下げるなずなに乙骨も狗巻も苦笑した。