第13章 八十八橋の呪詛
「おや、女性でしたか。これは失礼」
左手を頭の後ろ、右手を胸の前に当てた男性がこちらを見て柔和な笑顔を作る。
「きゃっ……!」
その姿になずなが小さく悲鳴を上げて咄嗟に手で顔を覆った。
なずなの隣で野薔薇もげっと顔を歪める。
この男、ほとんど服を着ていない。
いやボンデージファッションというヤツか。
筋骨隆々とした身体に着ているのはボディハーネス。
首には蝶ネクタイ、極めつけにTバックを着用していた。
なずなには刺激の強すぎる格好で、敵前にもかかわらず目をぎゅっと瞑ってしまっている。
相手側にあまり戦意が感じられないのは幸いだが、もしなずなが動けなかったら、と野薔薇は唇を噛んだ。
「我々兄弟に課せられたお遣い……その中に呪術師殺しは含まれていない……退けば見逃しますよ、お嬢さん方」
内心焦る野薔薇とは対照的に男は自分の親指を舐め、余裕の表情だ。
「お遣い?」
男の提案には答えず、野薔薇は聞き返す。
呪霊?呪詛師?
どっちだコイツ……
っていうか、なんだこの臭い。
どこからとなく漂う異臭は、結界に入る前にはなかったから、目の前の男が発しているのだろう。
聞き返した野薔薇に男は少し驚いたように瞬いた。
「てっきり同じお遣いかと……我々の目的は、宿儺の指の回収ですよ」
「宿儺の指……!?」
ここに指があるとでもいうのか。