第3章 彼の心配の種
その日、食堂には1、2年生の男性陣が集まっていた。
なずなは真希に手合わせに連れ出されている。
「そういえば恵、最近なずなとよく一緒にいるよな」
「こんぶ?」
パンダが意味深に伏黒の方を見る。
1年生が2人しかいないので、相対的にそう見えているだけかもしれないが、確かに2人でいるところを多く見かける。
この手の話題が好きなパンダからは後輩をつっついてやろうという意気込みを感じなくもない。
しかし、それは伏黒にも理由あっての行動だった。
「その渡辺のことで、ちょっと……」
大きなため息をつきながら、なずなの困った性質について話し始めた。
「……渡辺さん、方向音痴なんだ?」
話を聞き終えた乙骨が苦笑する。
「はい。1人だと学校内でも迷子になるレベルで……」
入学して早1ヶ月。
いくら呪術高専が複雑な構造でも、日々使う場所くらいは覚えるはずだ。
しかし、なずなを1人にすると、毎回迷子になっており、電話で助けを求められるか、ひどい時には玉犬を呼び出して探すこともある。
それがあまりに頻繁なので、もう学生寮から目的地まで一緒に行った方がいいという結論に至ったのだ。
なずなも時間にきっちりしているので、伏黒にとってはそちらの方がストレスがない。
「そういえば俺も初めて会ったとき、迷子になって校舎の周りをうろうろしてたな」
パンダも初めてなずなに会ったときの状況を思い出した。
あの時はまだ慣れていなくて迷子なのかと思っていたが、伏黒の話しぶりからそうでもなかったらしい。
「俺が任務でいないときは1人なんで、気が気じゃないというか……」
眉を寄せる伏黒にその場にいた2年生全員がこう思った。
……心配しすぎじゃないか?
まあ、この後輩は見た目よりずっと心優しいし、仲間想いだ。
心配するなと言っても無理だろう。
「そうだ、狗巻君」
何やら思いついた乙骨がごにょごにょと狗巻に耳打ちする。
「しゃけしゃけ」
狗巻もそれに頷く。
「乙骨先輩?」
「多分大丈夫、明日には渡辺さんも校内で迷子になることはなくなると思うよ」