第13章 八十八橋の呪詛
「ぇ、えっと……」
「急いでるんだからさっさとしなさい!」
なずながその場から動けずにいると、突き飛ばされるように背中を押されて、伏黒の前にまろび出る。
野薔薇の言う通り、今は一刻を争う。
ここで固まっていても皆の迷惑になるだけだ。
そう自分に言い聞かせ、なずなもおずおずと手を伸ばし、伏黒の手に重ねた。
これが初めてではなかったが、なずなの手を握ると、改めて自分のより小さい手だと思う。
その小さな手は鬼切を振るっているためか、少し皮膚が硬い。
日々の訓練も任務もハードなことが多いが、真面目にこなしている成果がこの手に表れている。
少年院の時より着実に強くなっているはずだが、それでも過去の恐怖は拭えないようで、なずなの指先は冷たかった。
恐怖心を我慢して手助けを申し出てくれたのかと思うと、胸に迫るものがあるが、同時に申し訳なさも湧いてくる。
伏黒は少しでもその不安が拭えればいいと、自分の手の中にすっぽりと包み込んでいた。
一方でなずなは気が気ではない。
ただでさえ、繋がれた伏黒の手から彼の体温を感じて顔に熱が集まるのに、自分の手からみるみる手汗が滲んでくるのが分かる。
汗!汗かいてる!
その前に!私の手、マメだらけだよね!?
迷子になるやもという恐怖はどこへやら、伏黒と手を繋いでいることに嬉しいやら恥ずかしいやら、すぐにでも離したくもあり、だが離し難くもあり、色々な感情が巡り巡って頭がパンクしそうだった。