第13章 八十八橋の呪詛
新田が言っていた八十八橋の肝試しの手順―
“夜に”
“下から”
『それからもうひとつ、峡谷の下に川があるかも』
橋の下の川辺を進むと、一歩で跨げそうな小さな川が見えた。
『川や境界を跨ぐ、彼岸へ渡る行為は、呪術的に大きな意味を持つっス』
ここを踏み越えれば呪霊の結界へ続く可能性が高い。
3人が気を引き締める中、なずなは少し冷や汗をかいていた。
呪霊の結界と聞いて思い出すのは、3ヶ月前の少年院での任務。
結界に入ってすぐに皆と逸れてしまい、しばらく1人で結界内を彷徨った恐怖が今になって滲み出していた。
しかし、伏黒を助けたいというのも本心、今更行かないなんて言いたくないし、1人で待っているのももっての外だ。
そこでなずなは隣を歩く野薔薇に目を向ける。
「の、野薔薇ちゃん、手繋いでもらってもいい……?」
「どうしたのよ、まさか怖いの?」
初めて呪霊と戦うというわけでもないのに、と野薔薇は訝しげだ。
「ま、また逸れちゃったら嫌だから……」
なずなが気まずそうに目を泳がせるが、野薔薇には「また」の意味が分からない。
「英集少年院で、私入ってすぐ逸れちゃったでしょ」
そう言われて野薔薇は記憶をたぐる。
少年院―……
ああ、あの時ね。
虎杖が死んだりしたから忘れてたけど、少年院に入った直後になずなが消えたんだっけ。
……いいこと思いついた。
ピンと閃いた野薔薇が意地悪く笑う。
「そんなの、私じゃなくて伏黒とすればいいじゃない……ちょっと、伏黒!」
「!?」
ちょ、ちょちょちょっと!野薔薇ちゃん!?
躊躇なく伏黒を呼んだ野薔薇に、なずなはギョッとして声も上げられない。
野薔薇の呼びかけが伏黒に届かないことを祈ったが、そんな思いも虚しく伏黒がこちらを振り返る。
「なんだよ?」
「なずながまた迷子になるのが怖いから手繋ぎたいって」
「またって……ああ、少年院の時か」
伏黒はすぐに思い当たり、なずなに手を差し出した。