第13章 八十八橋の呪詛
陽が落ちた後、伏黒は1人で八十八橋に向かっていた。
新田から電話で聞いた手順を思い出す。
『藤沼さんは、八十八橋の上には行ってないっス。肝試しは橋の下で行われたっス』
『橋の下なら虎杖も行きましたよ』
『たぶん上から降りちゃ駄目なんスよ。呪霊が結界内にいるなら、手順は大事っス』
昨夜何も出なかったのは、呪霊が閉じこもっている結界に入れなかったから。
そして藤沼の話から、被呪者は正しい手順を踏んで、その結界に入った者だということが推察される。
『“夜に”“下から”、それからもうひとつ―……』
伏黒は橋の下に出る斜面を滑り降りていく。
術式を付与した領域を延々と展開し続けるのは不可能だ。
そうなると、この結界は少年院の時と同じ未完成の領域。
今回は逆に助かった。
帳を下ろす必要がない。
1人で呪霊と戦闘になっても、外には一切影響しない。
懸念事項は呪霊の強さ。
術式範囲は少なくとも盛岡から名古屋まで。
被呪者の数も未知数だ。
その上未完成とはいえ、領域を展開し続けるほどの呪力量―……
もし、特級呪霊だとしたら……
だが、そんなこと気にしている余裕はない。
いつ津美紀が呪殺されるか全く見当がつかないのだ。
準一級以上の術師の派遣を待っている時間が残されているかどうかも分からない。
自分がすべきことは、1秒でも早く呪霊を祓うこと。
そう思案して、伏黒は八十八橋を見上げた。