第13章 八十八橋の呪詛
「ちょ、オマエらはって、伏黒は?」
車のフレームに手をかけて抵抗する虎杖を伏黒が無理やり押し込んだ。
「俺は武田さんに挨拶して帰る。ほら行け!」
野薔薇も渋々乗り込む中、なずなだけは車から少し離れて立ち止まり、頑として乗ろうとしない。
「渡辺も先に帰れ」
伏黒が再度促すが、なずなは首を横に振った。
「……伏黒くん、無理してる……」
なずなはスカートを握りしめて、伏黒を真っ直ぐ見つめる。
「津美紀の安否は伊地知さんが確認してくれるし、俺も大丈夫だ」
口ではそう言っているが、伏黒の表情は依然として張り詰めていた。
自分達に心配かけさせまいと強がっている。
なずなにはそう感じ取れた。確信さえある。
だって、ずっと見てきたから。
「それは大丈夫なフリしてるだけだよ。本当は全然大丈夫じゃない」
「分かったように言うんじゃ……」
「分かるよ!家族の命が危ないんだから、大丈夫じゃないのは当たり前だよ!」
滅多に聞かないなずなの張り上げた声に、思わず伏黒の動きが止まる。
「……私、お母さんや兄さんや弟が殺された時、どうしていいか全然分からなかった。そんな私を伏黒くんは助けてくれた。今度は私の番だよ。津美紀さんを助けるには、八十八橋の呪いを祓わないといけないんでしょ?私も手伝う」
この時ばかりはドキドキして顔を合わせられない、なんてことはどうでもよくなっていた。
ただただ助けになりたい一心だった。
そんななずなの視線から伏黒は目を逸らす。
「……論点がずれてるぞ。俺は武田さんに挨拶してから帰るんだ。だから先に帰れって……」
「その後、八十八橋に行っちゃうんじゃない?」
図星を言い当てられ、言葉に詰まった。
「1人で八十八橋の呪いを祓うつもりなんじゃないの?」
「……っ、ああ、ちゃんと帰る」
畳み掛けてくるなずなを突き返すように答えてしまう。
なずなも伏黒にここまで言われてしまったら、それ以上強くは出られなかった。
伏黒を残してなずなだけが乗り込み、新田は車を発進させる。