第13章 八十八橋の呪詛
「あぁ!いたーっ!良かったー!!伏黒さーん!」
突然大声で呼びかけられ、驚いて振り向くと、昨日中学校で会った不良少年の1人が自転車を2人乗りでこちらに来た。
「誰だっけ?」
「伏黒の後輩だろ?釘崎、散々イジってたじゃん」
首を傾げた野薔薇に虎杖が答える。
「八十八橋って言ってたから……本っ当に良かった!」
自転車の荷台から控えめそうなそばかすの少女が降りる。
伏黒は彼女に見覚えがあった。
「……藤沼?」
疑問符を浮かべる3人に同級生だと伏黒が小さく呟く。
そして不良少年から自分の姉だと紹介された。
「よかった……覚えてくれてて」
「昨日、姉ちゃんに伏黒さんの話したんですけど」
「あの、森下さんって近所でお葬式してて……その人と八十八橋のことを調べてるってこの子に聞いたから……何か関係あるのかなって……」
藤沼姉弟の背後で呪いの話はナシだと言わんばかりに新田がしーっと口に人差し指をあてた。
伏黒もその意図を汲んで話を続ける。
「関係って?」
「だから、森下さんが亡くなったことと橋が……」
「関係ない。俺達はただ……」
「私、中2の時に行ってるの……夜の八十八橋に」
伏黒を遮って続けたその声は不安に揺れていた。
げっ、と野薔薇は瞠目する。
その表情が見えないように前に出てきた新田が軽い口調でさらに尋ねた。
「最近、何かお家で変な事ないっスか?家族の中で自分だけが感じる違和感とか」
「……私の家、地方のアンテナショップやってるんですけど、私が帰る時だけお店の自動ドアが開きっぱなしなんです。お父さんもお母さんもたまたまだって言うんですけど……」
俯いていた藤沼が顔を上げ、震えを抑えるように自分の腕を抱く。
「絶対、何かいるんです。怖くて……そんな時、伏黒君の話を聞いて、八十八橋のことを思い出して」
「自動ドアの話はいつ頃からっスか?」
「ちょうど1週間前から、1日置きくらい……」
これまでの被害者とまったく同じ現象、間違いなく彼女も同じ呪いの被呪者だ。
殺された被害者は4人とも異常発覚から亡くなるまで最低でも2週間は空いてる。
まだ少し猶予はある。