第13章 八十八橋の呪詛
少しすると、着地したのか下からおーいと呼びかける声が聞こえた。
すぐに伏黒が鵺を下に向かわせ、虎杖が鵺の上に乗って戻ってくる。
「下に呪霊はいなかったけど、こっちは?」
「全然、影も形もないよ」
「どうする?少し待ってみる?」
首を横に振ったなずなに野薔薇が提案する。
呪霊が確認できない以上、出るまで待つというのも一つの手ではある。
被害者は“深夜のバンジージャンプ”をするために八十八橋に行き、そこで呪いを受けたと考えられるため、呪霊が出てくる特定の時間帯があるのかもしれない。
4人は車道と歩道を分けるガードレールに腰掛けて待つことにした。
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しかし、その後も待てど暮らせど呪霊は出ず……
「……なずな、寝るんじゃないわよ」
「……ぅん……寝て、ない……」
口ではそう言っているが、なずなは少し前からうつらうつらと眠りかけていた。
呪霊がいたり、その気配があれば眠気もなくなるが、現状それもなく暇を持て余している上、早寝の習慣があるなずなにはきつかった。
それでも、自分だけ寝るわけにはいかないと懸命に目をこすって起きていようとする。
……なずなの頭がかくりと大きく傾いだ時、ふわりと羽毛に包まれた。
臙脂色のやわらかい羽毛は鵺のもの。
伏黒が眠そうななずなを見かねて出してくれたのだ。
「渡辺、少し寝てろ」
「……ぃ、いいの……?」
「呪霊が出たら起こすから、すぐ動けるようにしとけよ」
「うん……ありがと……」
なずなはお礼を言って、鵺にもたれて静かに寝息を立て始めた。
虎杖が何やらニヤニヤしながらこちらを見てくるので、伏黒は怪訝な顔をした。
「……なんだよ?」
「別に〜?渡辺に優しいなと思ってさ」
「いざという時に動けねぇと困るだろ。呪霊が出たら鵺が動くから、渡辺も起きる」
一度戦闘に入れば、なずなもちゃんと目を覚ます。
その前に仮眠を取った方がパフォーマンスを落とさずに戦えると判断した。それだけだ。