第12章 まさかの恋敵
自室に戻ったなずなは、野薔薇に言われた通り、今日の感謝をメモに綴ると、それを握りしめて覚悟を決めた。
反対の手には携帯電話、
勇気を振り絞って伏黒の番号にコールする。
出てほしいような、出てほしくないような、そんな緊張感は長く続かなかった。
伏黒が1コールで出たのだ。
『渡辺?』
「ふ、伏黒くん、ぁの、そのっ……」
コールした時から緊張していたが、伏黒が電話に出たことで、余計に心臓がうるさく鳴り始めた。
耳元で聞く彼の声は心臓に悪い、と改めて自覚する。
握りしめてしまった手元のメモに寄ったシワを直しながら、懸命に文字を追う。
「き、今日は助けてくれて、ありがとう……私、その、す、すごく嬉しくて、あの、嬉しかったよっ……!」
言ってしまった後に冷や汗が出てきた。
……自分でもよく分からないことを口走ってしまった気がする。
嬉しくて、嬉しかったって……なに?
メモを見ていたはずなのに、全然読めてなかったし……
電話口から少し笑いを漏らしたような吐息の音が聞こえてきて、さらに恥ずかしくなってくる。
『……とりあえず安心した。俺のこと怖がってたみたいだったから、嫌われたかと思った』
「き、嫌いになんてならないよ!」
伏黒の意外な一言を、なずなは被せるように否定する。
そんなこと絶対にあり得ない。
むしろ、嫌われたらどうしようかと気が気ではないのは私の方。
……でも、最近の私の態度は、伏黒くんにとっては正反対の意味になってたらしい。